乳と蜜

柔らか巡礼

Entries from 2020-01-01 to 1 month

社会不適応雑技団

年始に母親が従業員へと気を遣ってもたせてくれた銘菓を、年末にバイトを辞めたせいでひとり毎日食べ続けている。憎たらしい社員たちの名前を、ブッセと餅の間に織りこみながら月末まで生きた。 暗闇を慣れないヒールで歩いていたら念仏を唱えながら歩く老人…

乳と蜜はここで流れている

私が2回生に上がる年に学部主催で行われた新入生歓迎会に、慣れない酒に身体ごと呑みこまれ吐瀉物を撒く化物と化した後輩がいた。キャンパスですれ違うたびハイブランドの服を纏い颯爽と歩を進める彼に対し、小声で「ゲロ」と呼びかけているのは、ここだけの…

無花果畑で掴まえて

胸がかなり小さい。味噌汁を作っているとき、まな板の上に取り残された豆腐の角。それは私の乳房そのもの。鋭利に見えて脆く、私を守ってくれはしない。 週末の楽しみに銭湯へ行く。裸眼視力の悪さ故に、老人たちの胸元に無花果が実っていると思っていたら乳…

うつくしい子ども

右スワイプをしすぎて親指の皮膚が硬くなってきた気がする。樹上の果実を取れないキリンの首は長くなり、夜の越え方を知らない女子大生の親指は硬くなる。 マッチングアプリ内でマッチした人たちに私が恋をしている相手の名前で呼んでもらい、お腹の底の方を…

私たちはどこからやって来てどこへ行った?

並ぶ色とりどりの眼鏡たち、それらのレンズに反射をする曇りなく白い蛍光灯の明かり。私はゆっくり手を伸ばす。レンズとフレームの境界が溶ける白い眼鏡は、飴細工に似ていた。 221日と10時間後の私は1通のメッセージを開く。 「プロフィールのあなたはとっ…