乳と蜜

柔らか巡礼

無花果畑で掴まえて

 胸がかなり小さい。味噌汁を作っているとき、まな板の上に取り残された豆腐の角。それは私の乳房そのもの。鋭利に見えて脆く、私を守ってくれはしない。

 

 週末の楽しみに銭湯へ行く。裸眼視力の悪さ故に、老人たちの胸元に無花果が実っていると思っていたら乳房だった。昔に付き合っていた彼女の胸がかなり大きく、枕を交わす最中に圧死するのではないかと慄いていたことを思い出して物悲しくなり、早々に引き上げる。背後の無花果畑は最盛期を迎えていた。

 

 早朝からアルバイトの面接へ、近所のホテルへと駆ける。ノーブラで行けば緊張しないかもと、普段は銃後にいる豆腐の角を最前線に送り出し、いざ出陣。カジュアルな採用面接を想像していると、総支配人を筆頭に総務課のトップまで揃う物々しい雰囲気。ホテルのトップ自らが質問をしてきても、目の前に座る私はノーブラ。あまりに滑稽で、何も用意してこなかったことが嘘のように快活に口から溢れ出してゆく志望動機とこれまでの職歴に学歴と特技。

 

 「大学生の割に君は立派だね」

 

  「恐縮です(ノーブラ)」

 

 「就職活動はしないの?」

 

 「大学院進学を予定しておりまして(ノーブラ)」

 

 「明後日から来てもらえるかな?」

 

 「ありがとうございます(ノーブラ)」

 

 豆腐の角の初陣は、即日採用という華々しいものとなった。胸を突き抜けてゆく開放感がノーブラから来るものなのか、労働先が決まったことに由来しているのか、私は知らない。